“二重”で演じていた頃も…中山咲月が俳優として迎える転換期

コスモポリタン×Gunosy

2023-03-31
『映画刀剣乱舞-黎明-』出演俳優・中山咲月が見つけた、アイデンティティと演技の居場所。
取材・コスモポリタン編集部
文・大川あずみ

モデルとしてデビューし、現在は俳優としても活動する中山咲月さん。3月31日(金)公開の『映画刀剣乱舞-黎明-』では、酒呑童子(しゅてん・どうじ)役を演じています。

2021年出版のフォトエッセイ『無性愛』では、性自認がトランスジェンダー男性であること、そして無性愛者であることを公表。アイデンティティを探求しながら活躍を続けてきたなかで、映画出演を機に「吹っ切れた」と振り返ります。

今回は中山さんに、撮影にまつわるエピソードや演技への思い、演技を終えた心境などを語っていただきました。

PHOTO:KAZUSHI TOYOTA

中山咲月さん

1998年9月17日生まれ、東京都出身。13歳で芸能界デビューし、その後モデル、俳優として活動中。出演作品は映画・ドラマ・舞台など。『映画刀剣乱舞-黎明-』では酒呑童子を演じる。2023年4月12日(水)〜16日(日)より公演中の舞台第9回公演「なんだコイツ(作・演出:井上テテ)」にも出演中


心の底から演技が好きに
 

──『映画刀剣乱舞-黎明-』の撮影現場はいかがでしたか。

監督もスタッフも、本当にみんながチームのようでした。『刀剣乱舞ONLINE』を原案にした『映画刀剣乱舞』の第2弾で、自分はあとから加わった形でしたが、温かく迎えられてすごく過ごしやすかったです。朝から晩まで撮影をしていたんですが、とにかく「楽しいな」って。

──第2弾から参加するにあたり、緊張はしましたか?

そのプレッシャーが一番大きかったですね。演者として「こうしたい」という気持ちと、自分自身のオタク気質による「ファンの人はこうしたら嫌かもしれない」という思いがぶつかって。ファン目線に立ちながら考え、演技にのぞみました。

『映画刀剣乱舞-黎明-』にて、中山咲月さん演じる酒呑童子
©️2023 「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC
──撮影にあたってどのように準備を?

三日月宗近(みかづき・むねちか)演じる鈴木拡樹さんと山姥切国広(やまんばぎり・くにひろ)演じる荒牧慶彦さんは、もともと舞台で同じ役を演じています。ベテランの2人と対峙する役どころとして、堂々とした姿勢を持たなくてはならなかったので、本当に不安でした。

実は、監督に事前に一対一で演技を見てもらう時間をいただいて。監督の言う「心の中から出てくる“怒り”」を目指して、何時間も稽古しました。
酒吞童子の怨念・無念が、災いもたらす呪いを生み出す
©️2023 「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC
──撮影を終えた今の気持ちは?

すべて出し切りました! 俳優としては「まだまだ」という気持ちですが、この映画をきっかけに自分の演技が好きになりました。

これまでは、演じていない「中山咲月」自身のこともわからないことだらけなのに、重ねて違う誰かを演じる難しさがありました。自分自身が安定していない状態で、ある意味集中出来ていなかったのかもしれません。

今回すべて吹っ切れて、心の底から演技が好きだなと思えるようになりました。


「もうこの世界には…」覚悟の公表
 

──トランスジェンダーを公表するまでの道のりは。

フォトエッセイ『無性愛』 を出版する少し前に、映画『彼らが本気で編むときは、』という生田斗真さんがトランスジェンダー女性を演じている映画を観ました。本当に何気なく観たのですが、観た瞬間「これは自分だ」ってピンと来て。

それまでも、性別に関する引っかかりはありました。でも「“女として生まれた”から女なんだ」と自分に言い聞かせていて。自分の気持ちにどんどん蓋をしていました。

映画を観たことをきっかけに、蓋をしていた自分の気持ちは爆発。そのときは、「自分のことを知れて嬉しい」というよりは、つらかったですね。自分で認められなくて。心の中の葛藤を受け止めるまでに丸々一カ月掛かりました。まずは「ファンに伝えなければ」と思って、SNSでつぶやきました。
フォトエッセイ『無性愛』 
──周りのリアクションは?

「もうこの世界にいられない」くらいの覚悟で自分のジェンダーについて投稿をしたのですが、ファンの方から本当に温かい声ばかり頂いて。「このまま続けてもいいんだ」とうれしかったです。中には「前からそうだと思ってました」という声もあったりして、自分のことを自分以上に見てくれていたんだなと思いました。

同じタイミングでフォトエッセイの話がきて、それをきっかけにファンの方以外にも発信していこうと決めました。自分にとってのターニングポイントを迎えることに。


発信できなかった過去。対話する現在。
 

──Twitterでは、「映画に集中できないかもしれないから、声変わり後に聞き慣れるまで(普段の動画を)見返してね」と呟いていました。この投稿の意図は?

“声変わり”(性別移行の一環で、男性ホルモンの投与により声が変わること)に関しては、約1年前から取り組んでいます。声が変わりだす前に出演した作品から時間もあいていたので、想定している声と違ったときにびっくりしちゃうかもしれないと思い。

もともと歌うのも好きで、元の自分の声で20年近く生きてきたので、自分でも変化に慣れない時期もありました。今となっては結構馴染んできたなと思います。

──等身大な発信が印象的です。このような発信に込める思いは?

自分のジェンダー像について、「言いたいけれど言えない時期」がありました。

ただ、表立って活動している身からすると、ジェンダーについて本人から発信がない限り、正解がない状態になりますよね。そうなると、周りはどうしても推測する。その推測が本来の自分と違うまま広まっていっちゃうんです。発信しなかったからこそ、誤解が生まれていました。
PHOTO:KAZUSHI TOYOTA
それなら自分は自分をさらけ出して、発信した方がいいなって。たとえそれでかっこ悪い姿を見せることになったとしても、自分は素の面も愛してもらえるように努力しているつもりです。今はもう、全部見せてしまっています。ファンに隠していることがないですね。

──ファンとの信頼関係を感じます。でも恋愛的に応援されることについて、中山さんはどのように思いますか?

自分のファンの呼び名は、「中山帝国」って言います(笑)。“帝国民”のみんなには「甘い言葉をささやくことはできないよ」って伝えています。いわゆる“ガチ恋”勢もいますが、冷静に対応されることも含めて推してくれている、みたいになっている雰囲気があります。

恋愛感情を送られても受け取ることができないので複雑な心境ではありますが、距離感を大事にしていけたらなと。


否定しない。押し付けない。
 

──中山さんが他者と関わるときに大切にしていることは?

自分が「一人の人間として見てほしい」と思う分、他人に対してもそうするようにしています。そもそも人のことを「女性/男性」など、カテゴリー別けして見れないんです。「先輩」や「上司」という肩書きもしっくりこない。

「この人はこういう性格なのかな」「こんな人なのかな」と人単位で考えて、それに合わせて会話しています。

あとは相手に対し「否定しない・押し付けない」というのはいつも言っていますね。性別に関して押し付けられてきたことが多いので、そのつらさは本当に分かります。自分がされて嫌なことは絶対しないと決めています。

──それでも間違ってしまうこともある。関係性を続けていく秘訣は。

ジェンダーのことで悩んでいたとき、「傷つけたくないけど、関わりたい」 と言ってくれる人たちが周りにたくさんいました。実際、その人たちの言葉に傷ついたこともありますし、当時は無自覚で悪気がない言動だったからこそ、確かにつらかったんですよね。

振り返ると、そのときに我慢しなければよかったなって。嫌だったら嫌とその場で伝えないと、相手のことを嫌いになってしまう。相手のことを嫌いにならないためにもちゃんと伝えてく、しっかりと話すことが必要だなと思います。

自分からかかわるときも、失敗することを避けていたらどんどん距離は生まれるばかり。ただでさえ友達が少ないのに…(笑)。人を傷つけるのは怖いけど、人との関わりはなくしたくない。間違えてしまったときはたとえ日をまたいでも、ちゃんと謝るようにしています。

──最後に、これから挑戦していきたいことは。

今、やってみたいことだらけでお仕事がどんどん楽しくなっています。演技に限らず、歌など色んなことに挑戦したいです。プライベートで好きなカメラも仕事につながるようになっていったり。もっともっと、「好き」を広げて続けていきたいです。
©️2023 「映画刀剣乱舞」製作委員会/NITRO PLUS・EXNOA LLC
興行収入9.5億円を記録した前作『映画刀剣乱舞-継承-』(2019)に続く第2弾、『映画刀剣乱舞-黎明-』。3月31日(金)に公開される。戦いの舞台を現代へと変え、歴史を守るべく戦う“刀剣男士”らと歴史修正を目論む“時間遡行軍”のスケールアップした戦いを描いたもの。監督は前作に引き続き、耶雲哉治。刀剣育成シミュレーションゲーム「刀剣乱舞ONLINE」が原案。


 
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